みなみレポ寄せ集め

みなみレポ

雪まつりバイトレポNo.0

時は2016年1月XX日、華の金曜日。

夜の街へ繰り出すサラリーマンたちの流れに逆らうように、とあるビルの前に佇む人影があった。

最後の実験も終え、翌週の試験に根拠のない自信を抱く女子大生、みなみである。

3月の旅行で金が入用な為短期バイトを探していたところ、札幌雪まつりバイトを発見し応募、面接にまで漕ぎ着けた次第であった。

試験には根拠のない自信しか抱けないみなみであったが、接客業の面接には今までのバイト経験に根差した自信があった。

コンビニで約2年間働いている勤勉さ、山パンのライン作業にも耐えうる精神力、パーティレセプタントで育まれた判断力……そして何より、雪まつり期間中は殆どシフトに入れるスカスカなスケジュール。これで落ちる筈が無い。意気揚々とみなみは面接会場へと足を進めた。

 

面接が行われる部屋の前には既に3人が集まっていた。男1人女2人、見たところ歳はみなみとそう変わらないようであった。

座って一息つく間もなく声がかかる。面接は4人いっぺんに行われるようで、全員が室内に呼ばれた。

室内には椅子が4つ並んでおり、みなみは一番左の椅子に座った。会社の簡単な説明、売る商品、基本的には雪まつり期間中全て出られる人しか採用しない旨を告げられ、いよいよ面接のスタートである。右端から順に自己紹介と自己アピールをすることになった。

 

(座っている順に右からA,B,Cとする。)

A「去年も雪まつり会場でバイトをしていました。今年も春休みに入って暇なのでバイトをしようと思い応募しました。フルで出られます。」

一般的な大学生、という感じの自己アピールであった。フルで出られると言われたときはみなみの強みが1つ失われた気がしたが、それでもみなみにはコンビニでの経験がある。この時はまだ強気でいられた。

 

B「大学1年生です。大学では野球部に所属しています。バイト経験はありませんが体力と大声には自信があります!フルで出られます!(体育会系特有の聞き取りやすい声)」

なるほど、野球部男子。面接官たちもこれは良い人材が来たと目を輝かせている。社長も彼を気に入ったようで軽く野球トークをし、面接会場は和やかな雰囲気に包まれた。

和やかでないのはみなみの心境である。初めに聞いた説明によると例年面接では3人に2人が落ちる。つまり今回の面接で採用されるのは1人か2人。彼はもう採用確定ではないか?ってかお前もフルで出られるんかい。体育会系はズルいわーーーーなどと顔に貼り付けた笑顔の裏ではこのような思考が巡らされていた。

 

C「大学4年生です。○○さん(雪まつりバイトをn年以上やっているベテラン)の紹介で来ました。居酒屋でバイト経験がありお客様にお褒めの言葉をいただいて表彰されたこともあります。掛け持ちの経験もあるので体力には自信があります!もちろんフル出勤OKです!(終始嫌味のない素敵な笑顔と声)」

終わった。みなみは確信した。これはアカン。経験者の紹介というだけで採用率は指数関数的に上昇するであろう状況において更にバイト強者、フル出勤可能というステータスを持ち出してきたのだ。例えるならばジョン・メイトリックス大佐がガトリングとランチャーで武装しているようなものである。コンビニでキレていらっしゃるお客様にキレ返して副店長沙汰になったみなみはベネット大尉にすらなれはしない。最早みなみの強みの全ては泥となって崩れ落ちたも同然だった。貼り付けた笑顔の裏で白目を剥いていても自己紹介の順番は回ってくる。遂にみなみの番となった。

 

みなみ「大学3年生です。お金が必要なので来ました。コンビニでのバイト経験があります。フルで出られます。」

もう自棄である。結局この世は金なのだ。マネーイズパワー。

 

しかしコミュ力の塊のような社長はそんなみなみの自己紹介からも色々話を広げてくれ、つつがなく自己紹介は終了した。

自己紹介終了後の質問タイムにもB,Cは自ら質問する積極性を見せ、社長は笑顔で答えていた。みなみも負けじと質問したが面接官たちはB,Cに夢中であった。

質問タイムも終わり、合格者にのみメールで連絡が行くことを告げられ面接会場を後にした。

1人になったみなみはふと夜空を見上げた。寒々しい空は所々雲に覆われ、凍てつく風に乗って雪が容赦なく顔に当たる。されど雲の切れ間から見える月は地上を明るく照らしていた。

 

 

数日後、みなみは雪まつりアルバイターとして雪まつりに参加することになる。